（中沢）
……この世界がもうぐちゃぐちゃで、不合理なものに覆われてしまったので、ラチオが欲しいというのでしょうが、それはちょっと違うんじゃないか。むしろありとあらゆるものが、むしろ有理数でできちゃっているんじゃないだろうか。儒教的なラチオに欠如しているものは何かといったら、無理数である美の問題じゃないかしら。……
前回のコーチング解説は、河合隼雄さんと中沢新一さんの対談を収めた『ブッダの夢』の第1章「仏教と癒し」の6番目の見出し「支柱を失った日本」を取り上げた初回なのですが、この見出しあたりから「西洋文化と日本の文化は異なる」という、ありがちの視点に対して、「両文化の結節は可能である」ことを“証明”しようと、お二人の対話にドライブがかかってきます。
冒頭の引用は、その“ドライブ感”が如実に表れてきている箇所です。ただし、高度なメタファーのオンパレードであり、中沢さんの言わんとすることを理解しようと思っても、読解に難儀すること請け合いですね。ところがお二人の「共感度」は、格段に高まっているのです。そして筆者は一つの気づきを得ました。
お二人は、哲学、宗教、さらに数学… といった学識に関するトップレベルの研究者（学者）です。そのようなリスペクトを共有する者同士が、気がね無用の対話（真剣勝負です）の世界に入り込んでいくと、「日常ではあまり使うことのない高度な専門用語が飛び交うのは自明のことだな…」、という気づきです。
「ラチオ」は哲学で語られる専門用語です。グーグル検索に「ラチオ 哲学」と入力すると、以下の内容が、最上部（強調スニペット）に表示されます。
西洋中世哲学における重要概念。 「数える」「考える」「判断する」などの意のラテン語動詞 reriに由来する名詞で，哲学的にはギリシア語の nous (精神) ，logos (理) の訳語として用いられたが，原語と同様きわめて多義的で，これを唯一の概念で規定することはほとんど不可能である。
開いてみると「ブリタニカ国際大百科事典」からの引用でした。この後も詳しい説明が続きます。かなり抽象的な概念のようなのですが、その抽象度も含めて、中沢さんと河合さんは全体を理解しています。
お二人は「ラチオ」のことがわかっている。「ラチオ」と言えば、その全体性が立ち昇ってくる。対談相手は「素人」ではない。「玄人同士」の対談は「専門用語」を駆使することで、対談をスムーズに進める（タイパ？）ことが出来る。河合さんは中沢さんの問題提起に次のように応えます。
（河合）
そうです。そういう発見をもう一ぺん試みるわけだけれども、その時に、われわれがいっぱい取り入れた有理数の合理的な世界を前提にして、もうひとつ新しくつくらなければだめですね。今までのままではもういかんわけです。やられてしまっている。なおかつ、しかし僕はまだ頑張ったらできるんじゃないかと思っています。
さて、今回のコーチング解説のまとめですが、「専門用語を駆使してのコーチングもあり！」ということをお伝えするのが主旨ではありません。河合さんの“本業”は心理療法家（カウンセラー）です。さまざまな精神的悩み（重篤な）を抱えた人と、臨床の場で対話を重ねます。つまり中沢さんのようなクライアントはいない、といってよいでしょう。
『生きるとは、自分の物語をつくること』の中で、作家の小川洋子さんが「文化財である布の修理で大切なのは、古い布につぎ足す新しい布は強くなりがちだが、それはダメ。二つの布の力を合わせること」と、河合さんが書かれた本の内容を話すと、人助けに燃えている人に敷衍して、河合さんは次のように応えています。
（河合）
そうするとね、助けられる方はたまったもんじゃないんです。そういう時にスッと相手と同じ力になるというのは、やっぱり専門的に訓練されていないと無理ですね。我々のように仕事は、どんな人が来られても、その人と同じ強さでこっちも座ってなきゃいかんわけですよ。年寄りの方もいれば子供もいる。いろんな人が来られますからね。
どのような人とお会いしても、「変幻自在にスッと相手と同じ目線の対話空間をつくりだすことができる専門家！」… まさにプロコーチが目指したい一つの境地ですね。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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