隣の人は自分と同じとは思わない方がいいですよ

家裁で調停の仕事をしている知人から、こんな話を聞いたことがある。言いあって、言いあったはてに、万策尽きて、もはや歩み寄りの余地、「合意」の余地はないとあきらめきったそのときから、ようやっと「分かりあう」ということがはじまる、と。この話はいろんなことを考えさせる。

引用は、『臨床とことば』の第4章の二番目の見出し「時間のなかの出来事」の冒頭です。
感情を爆発させた言い合いは、精も根も尽き果てます。そして「あきらめの境地」に。ところがそのとき、二人に不思議な感覚の萌芽が…… 何となく「分かる」ような気がします。
この二人が離婚したかどうかは書かれていないのですが、もし別れていないとしたら、感情爆発であっても「コミュニケーションを経たからこそ」、だったのかもしれませんね。

鷲田さんは「この話はいろんなことを考えさせる」と、この後「さまざまな考え」を私たちに提供してくれます。「分かりたい」という言葉が繰り返し登場する「思念」として…

……そして相手には、そのなんとか分かりたいという気持ちそのものが、かろうじて、しかしたしかに、伝わるのだ。つまり、ことばを受けとってくれたという感触のほうが、主張を受け入れてくれたということよりも意味が大きい。言っていることが認められたというよりも、言ったことばが、たとえまちがっていても、しかしとりあえずそのまま受け入れられた、それがそれとして肯定されたという感触が大切なのだとおもう。

対人関係において、「理解する」「理解できた」との言葉をよく耳にします。ただ多くの場合、深く考えることなく用いているようにも感じられます。哲学者の鷲田さんは、この「言葉の意味」を徹底的に吟味し、紐解きます。どこまでも腑分けし、行き着くところまで行こうとします。「哲学者の心性」が伝わってくる「言葉の流れ」です。

このように見てくると、理解するとは、合意とか合一といった到達点をめがけるものではなく、分からないままに身をさらしあう果てしのないプロセスなのではないかとおもえてくる。一致よりも不一致、伝達よりも伝達不能、それを思い知ることこそが、理解において重要な意味をもつ、と。そういう苦い過程を踏んだあとでこそ、「あのときは分からなかったけれど、いまだったら分かる」ということも起こるのではないだろうか。そのとき、そういう過程をくぐることで、私自身が変わったのだ。そういう出来事が起こることが大事なのであって、その場で分かるか分からないかはたいしたことではない。理解はつねに時間的な出来事でもあるのだ。……

この言葉は、河合さんとの対話で得た「気づき」を受けているように感じます。

わたしのわるい癖で、つい話をまとめようとする。するとかならず先生は、鍋の中の湯が煮立つときのように、大きな対流を起こして話をかき混ぜられる。もっと未分化のままでいろと諭すかのように。そして固まりかけているわたしによりも、その前の困惑や迷いのほうにより深く共振してくださる。

CBLコーチング情報局では、民族対立の最前線の地を踏みしめてきた国連難民高等弁務官であった緒方貞子さんの「言葉」を取り上げてきました。鷲田さんの「言葉」に触れると、なぜか緒方さんの姿が立ち上ってきます。緒方さんの言葉を再掲させていただき、今回のコーチング解説を終えることにします。

隣の人は自分と同じとは思わない方がいいですよ。あなたと私は違うのです。違った部分については、より理解しようとするとか、より尊敬するとかしなくてはいけないのではないでしょうか。“異人”という言葉。あれ、“異なる人”と書くでしょう。人間を見る時には、本当はにんべんの“偉人”でなくてはいけないのですよ。


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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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