今回のキーワードは、『＜心理療法コレクションⅢ＞生と死の接点』のなかの「イニシエーションの喪失」です。河合隼雄さんは定義から解説をスタートします。
イニシエーションは、未開社会において、ある個人がひとつの段階から他の段階へと移行するとき、それを可能にするための儀式である。宗教学者のエリアーデは、イニシエーションを宗教史的な観点から、三つの型に分けている。
- 少年から成人へ移行させるものであり、成人式、部族加入礼である。これは、特定社会の全成員に義務づけられていて、集団儀礼として行われる。
- 特定の秘儀集団、講集団に加入するためのもの。
- 神秘的召命によっておこるもので、呪医やシャーマンになるためのものである。
（60ページ）
近代になって、このイニシエーションは喪失していくわけですが、その理由を河合さんは次のように指摘します。
ところで、近代社会は、このような深い意味をもったイニシエーション儀礼の消失を、その特徴のひとつとしている。その理由は、われわれが伝承社会の人間とは異なる世界観を持って生きているからである。（61ページ）
儀式によって、他の段階に移行することを共有できた世界観が喪失したことで、個人の人間がそれぞれイニシエーションを体験していく必要が生じます。河合さんは、ここで「イニシエートされない人」の問題を取り上げます。知能が高いにもかかわらず、ごろごろして大学に出てこない学生についての語りを進めます。
言うことも鋭いし、行動力もある。ただ論理が一面的で、ものにつかれたような強さと、もろさを感じさせるところが心配である。そうするうちに熱が冷めたり、やり過ぎのため失敗したりすると、たちまち熱意が冷めて、もとの無為の状態に逆もどりする。まったくの無為になってしまったと皆が思いはじめると、また新しいアイデアや、運動に感激してやってくる。こんなことを繰り返し、何かひとつのことをほんとうにやりとげることはない。このような行動パターンなのである。（中略）
ユング派の分析家たちは、このような行動の背後に、永遠の少年（puer aeternus）の元型が作用していると考える。（63ページ）
「ひょっとして自分のことを言っているかも…」と、感じる人がいるかもしれませんね。元型は、意識されるものではなく無意識の内に存在します。河合さんの語りが続きます。
このような永遠の少年の元型は、すべての人の心の無意識の深層内に存在している。これがうまくはたらくときは、人に創造活動をもたらすが、このような元型と自我が同一化するとき、既に紹介したような、文字通りの「永遠の少年」の生き方が生じてくることになる。（64ページ）
儀式という外部要因の力を借りて、ライフスタイル・価値観を変えていくことができた時代は過去のものとなりました。その「過去」は、自分が死を迎えるまでの一生が、ほぼイメージできまたのです。
アドラーは、「ライフスタイルに優劣はなく、何らかの“問題”が生じない限り、そのライフスタイルは有効である」と言います。
その“問題”が次々と到来するのが「現代」です。イニシエーションに頼れない「現代」だからこそ、コーチングに意義が見出せるのではないでしょうか。
コーチングのコーチは、クライアントとともに未来を想像し、シミュレートします。その過程を通じて、変化を拒んでいたクライアントのライフスタイルに変化が訪れます。イニシエーション無き「現代」において、コーチングとは、イニシエーションに変わる新たな役割を帯びた関係性であるとも解釈できそうですね。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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